「路線図」だけでなく「水系」で見る横浜

横浜というまちを語るとき、私たちはつい「鉄道路線」という単純化された線で捉えがちです。

横浜駅を中心としたJR各線、相鉄、東急、京急、地下鉄。首都圏において「沿線」はまちの関係性を説明するのに使われがちな線であり、洋光台も、その文法に従えば「根岸線の街」として説明されます。

ですが、この「沿線」という線は、時にまちのつながりを見失ったり、誤解する原因になります。

洋光台というまちの、そして横浜という住宅都市の解像度を上げるために必要なもう一本の補助線。それが「川(水系)」です。

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横浜の「中心」は水系で分かれている

そもそも横浜の都心部はどこなのでしょうか。この話題になると2つの場所が出てきます。各鉄道路線と東西の大型百貨店に代表される集積をもつ「横浜駅周辺」。そして横浜のまちびらきで大きな役割を担い、かつては百貨店をはじめとした一大ショッピングエリアを持っていた「関内・伊勢佐木町周辺」。かつては「ツインコア」と位置づけられ、間をみなとみらいがつなぐような都市構造とされていました。

この2つのエリアのどちらを中心とみなすかは今日でも難しいですが、1つ間違いなく言えるのは、エリアの水系が異なるということです。

横浜駅周辺は、相鉄沿いに流れてくる「帷子川(かたびらがわ)」の河口部に位置し、対して関内・伊勢佐木町は、上大岡方面から流れてくる「大岡川」の河口部に位置しています。

かつての横浜の繁栄は、大岡川河口部の新田開発と、居留地の開発から始まりました。そして市街地は、海沿いと川沿い双方へ伸びていきます。この都市の広がりは、かつて走っていた横浜市電の路線網にみることができます。

横浜市電最盛期の路線図(横浜市webページより引用)

横浜市電の最盛期には大岡川沿いの市電が吉野町、井土ヶ谷、弘明寺に達しています。弘明寺から先の大岡川沿いはバスの発展した場所。横浜市営バスの最初の路線はここから始まり、東日本を代表するバス会社である神奈川中央交通の本社も弘明寺に置かれていました。そして、弘明寺から大岡川を遡った先にあるのが、上大岡、そして洋光台や港南台といった住宅地になった丘陵地です。

開発の波は川を遡り、丘へ至る

大岡川源流域である洋光台や港南台。この視点で2つの地域の風景を見ると、見え方が一変します。

鉄道路線で見れば、これらの街は「磯子の海側からトンネルを抜けた丘陵地に開けた住宅地」です。しかし川の視点で見れば、大岡川流域を遡り詰めた先にある「源流域の山に抱かれた丘の住宅地」なのです。

横浜というまちは水のある低地からはじまり、徐々に上流へ、そして第二次世界大戦後には丘陵地や斜面へ本格的に住宅地を広げていきました。

洋光台は、磯子の丘の上に唐突に現れた場所ではありません。関内から上大岡を経て、大岡川水系を遡ってきた住宅地の流れが、最後にたどり着いた丘陵地帯といってよいのです。こうした川を遡る構造は、同じ市内でも大岡川だけではなく、相鉄線と帷子川、京浜工業地帯と鶴見川などにも見ることができます。

なぜ「上大岡」に人が集まる?

この「川を遡る」構造から見えるのは、港南台・洋光台の見方だけではありません。現在の上大岡駅周辺の賑わいや、人々の動きも見えてきます。

上大岡は、大岡川水系が集まる場所に位置しています。水系を構成する川沿いには、洋光台だけでなく、港南台、野庭団地、芹が谷、上中里団地といった大規模な住宅地が、台地の上に広がっています。

水が高いところから低いところへ流れるように、源流域の丘に住む人々は、生活のために下流でヒト・モノの流れが集積する場所を目指します。

流域の各団地から、大岡川沿いの鎌倉街道へとバス路線が集約され、上大岡がその全てを受け止める場所になっている。上大岡がターミナルなのは、単に地下鉄と京急の乗換駅だからではありません。住宅地の成立と地形に導かれた自然な人流によって形成されたまちなのです。

沿線」ではなく「水系」を見ることで上がるまちの解像度

​横浜のまちを「鉄道路線」だけで捉えると、駅と駅の利便性にフォーカスしてしまいます。こうした見方はいわゆる「沿線文化」というフィルターを通しがちで、各々の街の雰囲気を読み違える可能性があります。

もちろん、​鉄道が住宅地拡大に寄与し、文化形成の一翼を担ったことは否定しません。しかし横浜市、とくに南部においては、その文脈だけを当てはめると街の特徴が見えなくなります。

​ここに「水系」という補助線を引くことで、人の流れや風景の意味合いは一変します。

​バスの混雑、坂道を登る人の流れ、隣町との空気の違い。ちょっとしたことですが、気になった際は鉄道に縛られず、川を遡り、谷と丘の営みを俯瞰してみることをおすすめします。すると、地形に寄り添って形成された横浜のまちの輪郭がよりはっきりと見えてくるはずです。

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